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千葉地方裁判所 昭和43年(ヨ)4号 決定 1968年3月28日

別紙目録記載のとおり

主文

本件仮処分申請を却下する。

申請費用は債権者の負担とする。

理由

第一、申請の趣旨

債権者は「千葉地方裁判所昭和四二年(ワ)第三一三号事件の判決確定に至るまで、債務者三代川開作は債務者千葉県共済農業協同組合連合会の会長兼理事の、債務者染谷誠、同池田滝治、同畔蒜源之助、同金谷隆、同宮内英司、同川城孝行、同平野得太郎、同水島英夫、同斎藤万右衛門、同江沢源一、同広部伊七、同山口保、同高橋利一、同井桁三郎、同石渡重男、同鈴木貞一、同霜崎良平、同内山要一、同秋谷好治、同川島丙、同清水利一、同八代重信、同関精一は債務者右連合会の理事の、債務者田丸宗平、同飯田晴一、同小関暹、同常住弘、同神崎武夫は債務者右連合会の監事の職務を、それぞれ執行してはならない。右期間中、会長兼理事の職務を行わせるため、弁護士小川彰を、監事の職務を行わせるため、弁護士北光二を、それぞれ職務代行者に選任する。」との決定を求めた。

第二、申請の理由

債権者の本件仮処分申請の理由の要旨は次のとおりである。

一、債権者は、昭和四一年六月一日債務者千葉県共済農業協同組合連合会(以下債務者連合会という。)の会長兼理事となった者である。ところが、債務者連合会は左記方法によりその任期中(任期は三年)の昭和四二年六月一三日債権者に対し会長の職を解任する旨の通知をなし、次いで同年八月三日の臨時総会において理事の改選を行い、債権者を理事に選任しなかった。

(一)  債務者連合会の第一理事(会長の職務を代行する第一順位の理事)吉野信之は、昭和四一年六月八日、同月九日、同月一一日の三日に亘り、債権者に無断で債権者を除く理事を千葉市内所在の篠原ホテルおよび料亭ほていやに招集して理事協議会を開催し、その各集会において債権者を会長から解任する旨の決議をなし、債権者に対し第一理事吉野名義をもって同月一三日付で前記解任の通知をし、

(二)  同月一三日ごろ債権者に反感を懐く理事らは債権者および二、三の理事の不知のうちに、秘密裡に会合し、吉野信之、債務者染谷誠、同畔蒜源之助の三名を債務者連合会会長職務代行理事と称するものに選任し、

(三)  右会長職務代行理事三名は、債権者を無視し、その承諾を受けずに同年七月二一日付をもって債務者連合会の臨時総会の招集通知をなし、同年八月三日千葉県農業会館で総会を開催したが、右総会において理事および監事全員の改選が行われ、三代川開作ら債務者二四名が理事に、田丸宗平ら債務者五名が監事に選任され、債権者は理事、監事に選任されなかった。

(四)  次いで、同月五日新理事による理事会において債務者三代川開作が債務者連合会の会長に選任された。

二、しかし、右の手続には次のようなかしがあるから、債務者連合会が債権者を会長および理事の職から解任し、三代川開作ら債務者二四名を理事に、田丸宗平ら債務者五名を監事に選任した行為は無効である。

(一)  会長解任の手続については農業協同組合法(以下法という。)その他の関係法規ならびに債務者連合会定款(以下定款という。)になんらの規定もないので、会長を解任するには法第四〇条、定款第二八条により総会において理事全員を改選する以外には方法がないものと解すべきである。

仮にその選任の場合と同一の方法によって会長の職を解任しうるとしても、正規の手続にしたがって理事会を招集し、会長に弁解の機会を与えたうえ、その決議によってのみ解任しうるものである。なぜならば、

1、法は農業協同組合連合会の理事は各自連合会の業務執行権および代表権(以下業務執行権という。)を有することを建前とし、これを総理する代表理事(会長)に関する規定をおいていないが、連合会の組織の規模が拡大し、その社団性が強固になるにつれ、各理事が業務執行権を行使したのでは会の統一的運営を阻害する事態を招来するので、これを一人または少数の理事に授権し、当該理事に業務執行権を掌握させることが必要となり、その結果他の理事は理事会なる会議体の一構成員として業務執行に関する意思決定に参加する権限をもつにとどまることになる。債務者連合会の会長制度はかかる必要性に基づき設けられたのであって、会長と一般理事との関係は株式会社の取締役会および代表取締役の関係に準ずるものである。したがって、各理事が会長を選任しこれに各自の業務執行権を委譲する手続は商法第二六一条第一項を類推適用して、必ず理事会における選任決議によってなすべきであり、右手続によってこそ、当該会長の選任に不賛成の理事も多数決の原理によって権限委譲の意思を擬制され、それに従うことを強制されるのである。

2、債務者連合会においては業務執行の権限を掌握する会長(定款第三〇条)の選任につき定款第二九条において「理事は会長一人、副会長一人、専務理事一人を互選する。」旨規定している。右条項は、これら役員は理事が理事のうちから選任するものであることを明らかにしたものであって、選任手続を規定したものではなく、その選任は定款第三二条第三号に則り理事会の決議によることを必要とするものである。換言すれば、同号にいう「役員」は会長、副会長、専務理事を指すのである。そのように解さなければ、同号は、「役員は総会において選任する」旨規定した定款第二六条と矛盾牴触することを規定したことになり、規定を設けた意味が没却されることになる。債務者連合会は従来から理事会で会長を選任しており、全国各県の連合会も右の例によっている。

3、そして、定款第三三条によれば、理事会の招集は会長の専権事項となっている。定款第三〇条には会長事故あるときの代理順序の定めはあるが、債権者は、同年四月二八日から同年六月九日まで船橋中央病院、東京医科歯科大学付属病院に入院したけれども、心臓の精密検査等の必要からそうしたまでであって、健康状態に支障はなく、会長の職務等一切の業務は病院内で執っていたから、会長には事故がなく、同条を適用する余地はないので、当時、理事会を招集する権限は債権者のみに属していたのである。

4、以上述べたように、会長の選任は必ず理事会の決議によらなければならないものとすれば、明文がない以上その解任も理事会の決議事項と解すべきであって、各理事が民法第六五一条第一項によって解任することはできないものである。

しかるに、債権者を会長から解任した手続は、会長ではない第一理事吉野が、債権者にはなんらの通知もなさず、その他の理事を招集して、理事協議会を開き、右会合における決議によってなしたものであって、右理事協議会は理事会ではないし、しかも、債権者に弁解の機会を与えていないから、右会長解任の決議は効力を生じない。

(二)  次に、債権者を理事の職から解任し、三代川ら債務者二四名を理事に、田丸ら債務者五名を監事に選任することを決議した臨時総会の招集は、招集権者でない会長職務代行理事三名によって行われたものであるが、次に述べる理由により右総会は法律上存在せず、その決議は効力を生じない。

1、法第三四条第三五条および定款第三九条第一項ないし第三項によれば理事が総会の招集権者である旨規定しているが、右の理事は会長たる理事のみを指すものと解すべきである。そうでないと、各理事がそれぞれ招集する数個の総会が成立し、その各決議が相互に矛盾し、会の運営の統一が保ち得ない事態が招来される。債務者連合会においては、従来から慣例上も会長が総会を招集しており、会長以外の理事が総会を招集した例は皆無である。

2、債務者連合会組織規程第二三条、第二四条、第二七条および別表職務権限表庶務係4総会の招集および提出議案の項によれば、総会の招集は会長の、会長に事故あるときは副会長の権限であることが明定されており、右によれば総会は、会長が決裁し、理事会に付議した後に、会長が招集すべきものであることが明白で、それ以外の総会の招集権者は、法第三六条、定款第三九条第四項所定の場合における監事のみであるから、会長以外の理事には総会の招集権限はない。右は債務者連合会規約第四条第一項、千葉県信用農業協同組合連合会規約第四条その他の規定に徴しても推認しうるところである。

3、そして前述のように債権者を会長から解任する理事協議会の決議は無効であるから、債権者は今なお会長の地位にあり、総会の招集権は債権者のみに属し、他の理事はこれを有しない。

それにも拘らず、債務者連合会は一部の理事のみの集会で会長職務代行理事なるもの三名を選任し(右選任自体、招集権限のない者が、一部の理事のみに招集通知をなして開いた理事会の決議によるものであるから無効である。)、右代行理事三名の連名で臨時総会を招集した。右総会は招集権者でない者によって招集され、しかもその招集につき定款第三九条第二項第二号所定の招集請求が会長に対してなされていないから、その招集手続には二重のかしがあり、法律上不存在というべく、右総会においてなされた理事および監事の選任決議はその効力を生じない。

三、以上の次第で、債権者は依然として債務者連合会の会長および理事の地位にあるので、右連合会を相手方として千葉地方裁判所に会長および理事の地位確認の訴え(昭和四二年(ワ)第三一三号事件)を提起しているのであるが、三代川ら債務者二四名に理事の田丸ら債務者五名に監事の職務の執行を許しておくと、右訴訟において債権者が勝訴しても、債権者は補填し得ない損害を蒙むるので、申請の趣旨記載の仮処分を求めるものである。

第三、当裁判所の判断

一、本件疎明(≪疎明標目省略≫)によると次の事実が一応認められる。

債権者は昭和三八年六月一日債務者連合会の理事に選任され、そのころ会長にも選任され、昭和四一年再度理事および会長に選任されたこと、同年春ごろ債務者連合会は、土地売買、旅館経営等の事業を営むため、略々全部の株式を引き受けて株式会社農協不動産を設立し、債権者が右会社の代表取締役に就任し、業務運営の衝に当ったが、同年七月三〇日ごろ茨城県北相馬郡守谷町所在の土地の売買に関連して金五、〇〇〇万円を詐取されるという事件が起り、これが新聞紙上に報道されるに及び、債権者の資金運用が専恣に流れ、不正な行為がなされたとして、債務者連合会々員および県下の各農業協同組合の内部に、債権者が会長を辞任すべきであるとの声が高まり、右連合会の理事の間にも、この際全員引責辞任して役員の改選を行うべきであるという気運が生じ、再三その旨を債権者に進言し、善処方を要望したが、容れるところとならず、会長辞任の気配を示さなかった。その間昭和四二年五月二〇日の右連合会の理事会(債権者は右理事会に欠席)において、副会長、専務理事の辞任の申出を承認し、新たに会長の職務を代行する第一順位の理事として吉野信之を選任し、債権者を除く理事および監事全員の辞表を千葉県知事に預け、その進退を知事の裁断に委せる旨決議し、翌二一日債務者染谷誠ら三名の理事が、当時、東京都新宿区所在の東京医科歯科大学付属病院に入院中の債権者を訪問し、前記の理事会の結果を報告するとともに、債権者も他の理事に同調して、進退を県知事に一任するよう要望し、債権者は同年六月六日開かれた理事会の席上において、速かに県庁に赴き知事に対し自己の進退を相談し、その結果を同月八日開催される理事会において報告する旨約束したが、県知事には面会せず、同月八日の理事会の招集を取り消した。債権者のかかる態度に憤概した理事らは債権者に事態収拾の誠意がないものと判断し、債権者の意向にかかわりなく、事を処理するほかないとして、第一理事吉野において債権者には連絡せずに他の理事全員に対して同月八日集合すべき旨を通知し、同日夜千葉市内の篠原ホテルにおいて理事協議会を開き、出席した理事に対し債権者を会長の職から解任することの可否を問い、欠席した理事の賛否を問うため、同月九日同市内の料亭ほていやにおいて、同月一一日前記篠原ホテルにおいてそれぞれ理事協議会を開催し、右三回の協議会を通計して債権者を除く全理事二三名のうち、解任に賛成する者一七名、賛否を保留して白票を投じた者六名の意思表明の結果を得た(右各協議会に債権者は出席していない。)ので、第一理事吉野は同月一三日付で債権者に対し右の各理事協議会の議事録を添付して会長解任の通知をし、次いで同日千葉県農業会館における役員協議会で暫定的に会長職務代行理事三名を選任して、会長の職務に当らせることを決定し、続いて理事会において出席した一九名の理事が全員一致で吉野信之、債務者染谷誠、畔蒜源之助の三名を会長職務代行理事に選任した。一方債務者連合会の正会員一五八名中一四〇名より理事全員に対し理事改選の請求があったので、右職務代行者三名は同年七月二一日付をもって法第四〇条第四項、定款第二八条第四項により同年八月三日臨時総会を開催する旨の招集通知をなし、右同日千葉県農業会館で開催された右総会(正会員一五八名中一四三名出席)において理事の改選ならびに監事の選任に関する議案が上程され、理事改選請求書の署名数確認の後、理事全員に対し弁解の機会を与えたうえ(なお、債権者は招集通知を受けたが、右総会には出席しなかった。)、理事全員の改選ならびに監事の選任に移り、役員推薦会議により推薦された役員候補者について一括して賛否の投票が行われた結果、賛成一四二票、不賛成一票となり、三代川開作ら債務者二四名が理事に、田丸宗平ら債務者五名が監事にそれぞれ選任されたが、債権者は役員候補者として推薦されなかったため、理事に選任されなかった。そして、同月五日同所で改選後の理事二一名が出席して開かれた理事協議会において債務者三代川が会長に選任された。

二、債権者は同人を会長の職から解任した決議ならびに同人を理事の職から解任し、三代川ら債務者二四名を理事に、田丸ら債務者五名を監事に選任した決議は無効であると主張するので、以下この点について検討する。

(一)  会長の解任について定款第三〇条は「会長は、この会を代表し、理事会の決定に従って業務を処理する」と規定して、会長に業務執行の権限を帰属させることにし、第二九条において、その選任を理事の互選によらしめているところ、理事は法第四一条において準用する民法第五三条により、各自連合会の業務執行権を有するものであるから、右定款の定めに従って会長を選任すれば会長以外の理事は定款の定める限度において会長に対しその有する業務執行権を信託的に委任した関係になるものといえる。しかしその故に理事は会長の業務の執行につき無責任となるものではなく、少くとも善良な管理者として会長の業務の執行につき注意を払い、これを監視して会の業務の適正な運用を確保すべき注意義務を負い、もし会長の業務執行に信頼をおけないような不安があるときは、民法第六五一条第一項によりいつでも解任しうるものというべきである。

したがって、会長の解任は理事全員を改選することによってのみなしうる、とする債権者の主張は採用できない。

そこで会長解任の手続について調べると、法および定款にはなんらの規定もないので、その選任手続と同一の方法によるを相当とするところ、定款は前記の如く「理事は会長一人を互選する」と規定しているので、会長は理事のうちから、理事全員の多数決によって選挙する趣旨と解するを相当とし、理事全員に対しその選任につき書面または口頭で任意に意思を表明する機会が与えられれば足り、特に一定の方式を要求されるものではないと解される。(国会法第四五条第三項、衆議院規則第一〇一条、参議院規則第八〇条、警察法第四三条参照。)したがって会長の解任についてもこれと同様、一人または数人の理事の発議により、会長解任の可否を理事全員に問い、多数が解任を可とするときは、解任の効力が生ずるものと解すべきである。

この点につき、債権者は会長解任の手続はその選任の方法によるものとしても、定款第三二条第三号が理事会の決議事項として「役員の選任に関する事項」を掲げているから、会長の解任は必ず理事会の決議によらなければならない旨主張する。右の「役員」がいかなる役職の者を指すか条文上明白ではないが、法第三〇条、定款第二五条、定款付属の役員選任規程における用語例を参照すれば、ここにいう役員は法に定める役員である理事および監事を指称し、会長はこれに含まれないものと解釈するのが相当である。債権者は理事および監事の選任は定款第二六条により総会の決議事項であるから、定款第三二条第三号を会長等の選任に関する規定と解釈しないと、同号は第二六条と矛盾した規定となる、と主張するが、同号は、理事および監事の定員、任期、被選任資格、選任方法等に関し、定款改正の議案を総会に付議し、または規程を改正するについての規定と解されるから、債権者の右反論はあたらない。また、債権者は商法第二六一条第一項の類推適用をいうが、農業協同組合法は、中小企業等協同組合法が株式会社に関する商法の規定に做って、理事の合議制機関である理事会を業務執行機関とするとともに、理事会の決議を実行し、業務の決定、実行にあたるものとして代表理事をおくことにしているのとは異り、業務執行、代表機関として理事を、監督機関として監事をおくに止め、代表理事制(会長制)をとるかどうか、理事会を設けるかどうかは組合の自治に委ねているので、会長の選任および解任手続も組合が適宜定めることができるものというべきであり、債権者の右主張は首肯できない。尤も≪証拠省略≫によれば、債務者連合会は昭和三八年と昭和四一年、それぞれ理事会において会長を選任したことが認められるが、右書証によれば、会長、副会長、専務理事は出席理事全員の賛成により互選されたものであることが認められるから、右選任手続は定款第二九条に則りなされたものであることが明らかであり、ただ理事会を招集して互選したにすぎないと考えられるので、このことをもって、会長の選任が理事会の決議事項となったものということはできない。(なお、代表監事の互選については債務者連合会規約第二三条参照)

ところで先に認定の如く、第一理事吉野信之は債権者に対し招集通知をせず、債権者不参のまま三回にわたり理事協議会を開催し債権者は弁明の機会を与えられずに右協議会の決定により会長を解任されたのであるから、右吉野の処置は当を欠くとのそしりは免れない。しかし債務者連合会内に漲っていた会長不信の空気からみて、債権者が右協議会に出席し、意思表明をしても、前記協議会における理事の意思表明の結果が覆えるものとは考えられず、会長は理事の信頼に基づきその地位に就くものであることと考え合わせれば債権者に弁明の機会を与えなかったからといって、解任の効力を生じないとすることはできない。したがって債権者は有効に会長の職から解任されたものと認められる。

(二)  理事の改選について

定款は、会長に事故あるときおよび会長欠員のときの代理、代行の順序を、副会長、専務理事、理事の互選により定められた理事(第一理事)と定め(第三〇条)、そのほかに会長の職務を行う者をおかないので、法第四一条民法第五三条と合せ考えれば、債務者連合会においては、会長が欠員で、副会長も専務理事もいない場合には、第一理事が会長の職務を行い、第一理事もいないときは、その他の理事が当然会の業務執行権を有するのであって、理事会の決議をもって、右三職のほかに会長の職務代行機関を設け、その者に会長の職務を行う権能を授与することはできないものというべきである。ところが、≪証拠省略≫によれば、昭和四二年五月二〇日副会長と専務理事が辞任し、同日理事会において吉野信之が第一理事に互選され前記臨時総会招集当時同人が第一理事の地位にあったことが認められるので、総会を招集する権限が、(1)会長に属するものならば、第一理事吉野信之が(2)各理事に属するものならば、理事が、右臨時総会を招集すべきであるから、吉野信之ら三名が会長の職務代行者としてなした右総会の招集手続はこの点においてかしがあるといわざるをえない。しかしながら右かしの故をもって、右総会が成立せず、右総会における理事の改選が無効であるということはできない。すなわち

定款を調べると、第三〇条は「会長は理事会の決定に従って業務を処理する。」と規定し、第三二条において「この会の事業の運営につき、左に掲げる事項は理事会においてこれを決する。一、業務を執行するための方針に関する事項、二、総会の招集及び総会に附議すべき事項、(以下省略)」と定めていることからすれば、総会を招集する権限を会長に専属させた如くみられないでもないが、理事会は会長が招集するものとしている第三三条と、総会は理事が招集するものと定めた第三九条を対照すれば、理事が総会招集の権限を有することにしたものと解されるのであって、各理事が業務執行権を有することをたてまえとしている(したがって、理事会を設置し、代表理事をおくかどうかは、組合の自治に委ねられている。)農業協同組合法の規定(第三四条、第三五条、第三九条、第四一条等)および同法により設立された債務者連合会の定款の規定(第二九条、第三〇条、第三三条、第三九条等)と、業務執行機関として理事会および代表理事をおくことを必須要件とする中小企業等協同組合法の規定(第三六条の二、第四一条、第四二条、第四七条、第四八条等)とを対比すれば、債務者連合会においては、理事が招集権者であり、理事全員で構成する理事会が総会招集の決定をした場合は、会長がその決定にしたがって総会を招集するが、理事会の議に付さないものについては理事が招集権者として招集の手続をなしうるものと解すべきである。そして、定款第三九条第二項第二号、第三号の請求による総会の招集についてみれば、仮に中小企業等協同組合においては、第四一条第一項、第四七条第二項による総会招集の請求についても、理事会の決定を経なければ総会を招集することができないものとしても、農業協同組合は理事会や代表理事を必須機関とせず、中小企業協同組合法第四八条の如き規定を有しないことにかんがみれば、債務者連合会においては、第三九条第二項第二号、第三号の請求に応じて総会を招集する場合には、理事会の決定を要せず、理事が招集できるものと解するを相当とする。もしそうではなく、債権者の主張するように、第三九条の理事は会長を指すものとすれば、会長、副会長、専務理事、第一理事以外の理事は除外されることになり、右役職理事が選任されず、欠員の場合には、当然一般の理事が業務執行権を有するにも拘らず、第三九条第四項第一号前段は、それらの理事を無視して業務執行権者でない監事に総会招集の権限を与える違法を犯したことになるし、同号後段の事由がある場合には、業務執行権者として選任された理事を差しおいて監査機関である監事に招集させるという不条理な結果を招来する。

尤も、≪証拠省略≫によれば、債務者連合会は、会長が総会を招集することを前提とした運用規定を設け、また実際上も会長が総会を招集するのが例となっていたことが認められるが、かかる事実のあることをもって、右定款の解釈を動かすことはできない。

先に認定の如く、前記臨時総会は、正会員一五八名中一四〇名からの理事改選の請求によって招集されたものであるから、右は定款第三九条第二項第二、三号の請求に該当し、理事が理事会の決定を経ずに招集しうるところ、右総会は吉野らが会長職務代行理事として招集したものであることが、≪証拠省略≫によって認められるので、右総会の招集は会長職務代行の肩書き付きではあるが、理事がなしたものである。したがって、右招集手続には、会長職務代行の名称を付したかしはあるが、理事が理事としてなしたものであるから、右招集により開催された総会は有効に成立したものというべきである。

仮に、総会招集権は会長に専属し、一般の理事にはないものとしても、債務者染谷および債務者畔蒜は招集権限がないが、吉野信之は第一理事として会長の職務を行うべき地位にあったのであるから、右三名のなした総会招集手続には無権限者が連名でなしたかしはあるが、招集の権能のない者のなした招集とはいえないから、それによって開催された総会が成立しなかったとすることはできない。

要之、前記かしは、法第九六条により行政庁に対し救済を求める事由となっても、総会不成立の事由とはなりえないものである。

そして、臨時総会には半数以上の正会員が出席し、理事改選ならびに監事選任に関する議案が上程され、全理事に理し弁解の機会が与えられたうえ、新役員選任の投票がなされ、絶対多数をもって三代川ら債務者二四名が理事に田丸ら債務者五名が監事に選任され、債権者は理事の候補者に推薦されなかったため、投票をまつまでもなく、理事に選任されなかったのであるから、右総会の決議にはなんらかしはなく有効に成立したものというべきである。

また、債務者三代川は理事協議会において過半数の理事の信任を受けて会長に互選されたものであるから、その選任手続にもなんらのかしはない。

三、以上の次第であって、債権者の主張する本件仮処分の被保全権利の存在は結局疏明なきに帰し、かつ、保証をもって疏明に代えて仮処分を命ずるのは相当でないから本件仮処分申請は理由なきものとしてこれを却下し、申請費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 田中隆 裁判官 渡辺昭 片岡安夫)

<以下省略>

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